2015年、日本に現れた音楽ストリーミングサービスを、まだ馴染めない人は多いのかもしれない。配信することに対して、好感を持てないというアーティストもいると思う。その一方で、2016年に突如として現れ、音楽ストリーミングというプラットフォームを使いこなし、国内外問わずリスナーを増やしている2人組がいる。その2人組とは「ANIMAL HACK(アニマル・ハック)」。東京を拠点に活動する2人組のプロデューサーユニットだ。ダンスミュージックに、彼らのパーソナルなエッセンスやバックグラウンドが加わり、ジャンルや時代にとらわれない楽曲が話題となっている。そして、2月21日(水)にANIMAL HACKの2nd Album「GIFT」が配信開始となった。謎の多い彼らのことが気になり、AWAではANIMAL HACKのMasatoとYutaに話を聞いた。
そもそも、ふたりはどこで知り合い、一緒に音楽を始める経緯はなんだったのか。
Masato(写真:左)「僕とYutaくんは高校の同級生です。ふたりで音楽活動を始めたのは3年前くらいですね。当時、Yutaくんはラップとトラックメイクをやっていて。僕は、以前バンドをやっていたんですけど、しばらく音楽を離れていました。それで、ひさしぶりにYutaくんと会ったとき、なにか一緒にやろうってなったのがはじまりです。せっかくやるからには、トレンドが来てるもの、成長産業で頑張った方が良いよねってことで、ダンスミュージックをふたりで作ろうって。当時、2014年でウルトラが日本に来たタイミングでもあったので、勢いを感じられる場所でやろうとなりました」
Yuta(写真:右)「日本だけじゃなく、世界に通用する音楽を作りたいって思いは共通してありました。最初は、僕が作ったトラックに合わせて、Masatoくんがギターを弾くみたいな感じだったのですが、全然かっこ良くないものに仕上がって(笑)。それから2人で世界で通用するフォーマットを考えたときに、言葉よりサウンドの位置付けが高いダンスミュージックは良いフォーマットで、自分たちでも一石投じることができるんじゃないかってなりましたね」
ルーツは共通しているが、対照的な音楽をやっていたふたりの行き着いた先がダンスミュージックだった。いままでに、リリースした作品について聞いてみた。
Masato「2016年4月に1stシングル『Keep Shakin』、同年9月に1st EP『ANIMAL HACK』、2017年5月に2nd EP『Boy』、そして、2018年2月21日に3rd EP『GIFT』が出ます。1作目の『ANIMAL HACK』は、とにかく名前を覚えてもらいたいっていうのがあって、名刺的な感じでアーティスト名とタイトルを一致させました。2作目の『Boy』は1作目ではやりきれなかった、自分たちのバックグラウンドや、高校時代に過ごしてきた青春の思いみたいなのを入れて、文学性や意味を持たせた作品。今回の『GIFT』は自分たちのバックグラウンド、思い出のあるエンターテインメントコンテンツを全部詰め込んで作ったので、よりパーソナルで深い内容になってます。僕の場合だと、ギターロック、シューゲイザー、インディーポップとか。Yutaくんだったら、エモやオルタナティブロック、映画や文学ですね。ジャケは、自分たちの作った作品がより高いところに、より遠くの予期しない場所に飛んでいってほしいという思いを込めて、風船を空に浮かべた写真になっています。今回は、写真家のトヤマタクロウさんに撮ってもらいました」
Yuta「トラックの共作は行わずにそれぞれ別で作っています。その方が、ひとりひとりのエゴが貫かれて、おもしろい作品になると思っていて。今回の作品『GIFT』は、より個人の深い意思が反映されて、パーソナルな部分に進んでいっています。背景を知った上で、この曲はどっちの曲なのかなとか考えてもらえたりすると嬉しいですね」
Masato「僕は重ためのビートのダンスミュージックなんですけど、そういうのをやる人が持ってこなそうなものを意図的に持ってくるようにしてます。色あせたザラついた質感のインディーポップの曲や、Tame Impala(テーム・インパラ)みたいなバンドとか。敢えてそういうところからアイデアを持ってきています」
Yuta「今回のアルバムのなかに『WIMM?』(Where is My Mind?)って曲があるんですけど、この曲はアニメの『攻殻機動隊』にインスパイアされて作った曲です。ダンスミュージックだけを参考に作っても、他の人と似たような感じで面白くないなって。ロックやエレクトロ、ヒップホップなどの音楽的な部分要素もそうなんですけど、映画や文学、アニメとか。インプットした、いろんなものを自分の音楽に取り込みたいなって思ってます」
なるほど。ふたりのバックグラウンドやカルチャーが1曲ずつに凝縮されているから、唯一無二のダンスミュージックに仕上がっているのか。それぞれ作った楽曲が1枚のEPとなったとき、初めて ANIMAL HACK としての作品になる。彼らの音楽に共感するリスナーは日本のみならず、海外にも多いらしい。クラブで外国人に、”最高だったよ!”と声をかけられたり、Instagramに短編動画の映像をアップした際に、フランスの方が ”その楽曲かっこいいから教えてほしい” とDMをしてきたり。海外の人が聴いてくれていることを肌で感じ嬉しいようだ。そうなったのも彼らは音楽ストリーミングサービスのおかげだと話す。ストリーミングサービスに対して、どう考えているのかが気になった。
Masato「めちゃくちゃポジティブに捉えてます。ストリーミングサービスが存在する前までは資本力が大きな要素を占めるの戦いだった音楽産業が、いいものを作っていればちゃんと発見される、僕たちみたいな大きな資本を持たないインディペンデントな人たちでも戦っていける、開かれた場所になったと思います。実際に聴かれている国や地域の状況を数字で見れたりするのも良いですよね。自分自身個人的にものを買わない人で。本もKindleで読みますし、CDもここ数年でほぼ買ってない。アイデアを得るために効率的になった。信頼できるプレイリスリトを大量にストックしておいて、そこからたくさん聴くことで、たくさん曲のアイデアが得られる。良い時代になったなって思いました。また、あるストリーミングサービスのチャートのアルゴリズムは、新譜であればあるほど上に上がりやすかったりとか。これから出てくるアーティストには追い風になっていると思います」
Yuta「ライフスタイルの一部ですね。昔はCDをTSUTAYAで借りたりしてたんですけど、いまはストリーミングサービスとYouTubeで曲を検索するのがメインになってる。気に入ったアーティストをすぐにお気に入りにできるところが良いですよね。友達と話して、こういうアーティストいるんですよって聞いて。そのアーティストをスマホでお気に入りして、帰りの電車で聴くことができたり。あとはプレイリストの存在が大きいと思っています。これまでは自分の好きなアーティストがどんな音楽に影響を受けてきたかを調べるときに、雑誌で知る方法しかなくて。いまはアーティストが自分のプレイリストを作ってて、こういう曲が好きっていうのを公開しているので、最短パスで調べることができる」
Masato「たしかに。アーティストのバックグラウンドに触れることも容易な時代になった」
Yuta「自分たちで言うと、配信だけでリリースしてる状態なんです。配信サービスがなかったら、こんな駆け出しのアーティストが世界のトップアーティストと並んで、同じプレイリストで聴かれることはないなって思います。そういう状態が作られてて、フラットになった」
Masato「タワレコとかのお店の展開だと、単純に店の有限の面積をお金で買って商品を置いてもらうスタイルだけど、ストリーミングは無限のスペースがあるので」
音楽ストリーミングサービスが現れ、アーティストにとってはフラットになり、可能性も無限に広がった。ANIMAL HACKにとって、音楽ストリーミングサービスは欠かせない存在だと分かった。今回、AWAではANIMAL HACKのふたりにプレイリスト「GIFT from ANIMAL HACK」を作ってもらった。このプレイリストはどのように選曲したのか。
Masato「プレイリストは今回のアルバム『GIFT』に関わった楽曲を選びました。AWAは手触り感とか、かなり意識されたUIになっていると思います。スクロールしたあとに余韻があったり。あと、ユーザーがカジュアルなタイトルを気軽につけて、プレイリストを作り共有するカルチャーがある。プレイリストを作って、お気に入りし合う流れができていて、他のストリーミングサービスに比べるとフレンドリーな気がします。僕たちの曲が音楽好きの人だけでなく、わりとライトユーザーな方が作ったような『アガるEDM』みたいなプレイリストに入ったりしているのも嬉しいですね」
Yuta「音楽好きだけがわかる音楽は作ろうと思っていないので、いろんな特徴を持ってる人から聴かれているのは嬉しい」
Masato「ANIMAL HACK は、音楽を知らない人でもいいねって聴いてくれたりするのが嬉しいです。音楽マニアの人が気付けるポイントをいろいろな曲に入れ込んでいるので、より多くの人に聴いてもらいたい」
このプレイリストを聴けば「GIFT」の制作裏側が分かって、おもしろいかもしれない。最後に今後の展望を聞いてみた。
Yuta「海外のイベントに呼ばれたいですね」
Masato「ストリーミングサービスのおかげで聴かれる機会は増えたんですけど、どういう考えを持った、どんなアーティストなのかは十分に認識してもらってなくて。このアーティストだから聴くって状態をまだまだ作れていないので、そこはどうにかしたい」
Yuta「プロデューサーってバンドやシンガーソングライターと違って、特定の曲は好きだけど、アーティスト自体は好きじゃないってパターンが多いと思うんですけど、僕たちに共感して、ANIMAL HACKが好きって人が増えたらいいなと思ってます」
Masato「今後は自分たちがなにが好きとか、いろいろな手段をつかって、こういう人たちなんだよってところを押し出したい。映像・写真等のビジュアル作りから、ストーリーやPRなど、感性の合う各分野のスペシャリストを集めて、ANIMAL HACKをトータルでより高いレベルにして、自分たちはもっともっと音に専念できる状態を作りたいと考えています」
Links
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Credits
Text:Toru Miyamoto
Photo:Toru Miyamoto