さくらしめじ×ELT伊藤一朗のコラボ曲『靴底メモリー』が教えてくれた“自分たちらしい音楽”

そのあいくるしいヴィジュアルとは打って変わって、現役高校生フォークデュオ・さくらしめじの音楽に対する姿勢は極めて実直。彼らがいかに真摯に音楽に向き合い続けてきたかは、その歩みを見れば一目瞭然だろう。2015年より約1年4ヶ月かけて全国47都道府県をまわるフリーライブツアー「さくらしめじニッポン列島菌活の旅」を敢行。さらに2017年からは、約1年かけて日本各地のライブハウスを巡る「菌育 in the 家(はうす)」をスタート。自分たちの音楽を、生で共有することにこだわり、きのこりあん(ファンの総称)の数を増やしてきた。そんなさくらしめじに、ひとつの転機が訪れた。それが、Every Little Thingの伊藤一朗との出会いだ。記念すべき1stアルバム『ハルシメジ』で、さくらしめじ作詞×伊藤一朗作曲による新曲『靴底メモリー』を収録。34歳差のコラボレーションは、さくらしめじにまた新たな一面をもたらしたと言う。さくらしめじの田中雅功と髙田彪我、そして伊藤一朗に、この共作が生んだケミストリーについて、たっぷり語ってもらった。

DSC_7723.jpg

ツアーの最終日を締め括る曲として浮かんだのが『fragile』だった

そもそもコラボレーションのきっかけとなったのは、先述のフリーライブツアー「菌活」のファイナル・東京会場で、ELTの代表曲『fragile』を歌ったことがきっかけだった。

 

田中(写真:中央)「各地でいろんなカバー曲を歌ってきて、最終日を締め括るのにはどの曲がいいだろうって、みんなとずっと話し合っていたんです。その中でふっと浮かんできたのが『fragile』。小さい頃からテレビで聴いていた曲だし、僕も大好きなので、自然と『fragile』がいい!って感じになりました」

 

髙田(写真:右)「歌詞を見ると切ない恋の歌という感じなんですけど、実は僕たちさくらしめじにも当てはまるところがあるんじゃないかなって。『いろいろあったけれど、これからも一緒に前に進んでいこう』という感じが、あの頃の僕たちの気持ちにすごくリンクするような気がしました」

 

ふたりの『fragile』は好評を博し、5thシングル『あやまリズム』のカップリング曲として音源化。さらに昨年末に東京・赤坂BLITZで行われたワンマンライブ「菌育 in the 家(はうす) スペシャル!」で、伊藤一朗がゲスト参戦。1111人のきのこりあんの前で、3人による『fragile』を披露した。

 

伊藤(写真:左)「年齢が若いということだけではない、もっと本質的な意味でピュアなものをふたりの歌声には感じましたね。特にこの『fragile』はギターだけでパフォームするには難しい曲。だからこそ、ふたりの『fragile』は意外で新鮮だったし、何よりギターで弾き語りをするミュージシャンの方は多くいますが、大抵はもう少しアバウトになりがちなんですね(笑)。でもふたりは歌もギターもとても丁寧で誠実。そこがすごいなと思いました」

 

田中&髙田「感激です……!」

 

髙田「スタッフさんから話を聞いたときは『あの伊藤さんとちゃんとセッションできるのかな……』っていう心配と緊張があったんですけど。いざ本番のステージに立ってみたら、伊藤さんの優しさに自然と包みこまれていくみたいで、すごく温かいものを感じました」

 

田中「最初は緊張したけど、何度かリハーサルをやっていくうちに、3本のギターとふたりの声というのをちゃんと聴けるようになっていって。本番では3人でセッションできることが純粋に楽しいという気持ちでした」

 

ふと靴底を目にしたとき、「靴底って深いな」ってピンと来たんです

そんな一夜のセッションは、一夜限りでは終わらなかった。さくらしめじ×伊藤一朗という2本の線がクロスオーバーし、今回の共作曲『靴底メモリー』が誕生。ふたりのギターと純度の高いハイトーンボイスが映える爽やかな応援ソングに仕上がった。

伊藤「ライブで一緒になったときから、たとえ音数が少なくとも十分にパフォームできる人たちだということはよくわかっていました。だから曲を書くときも、ふたりの持ち味は敢えて崩さず、メロディはシンプルなものでいこう、と。若いうちは音数が少ないと、あれこれ詰め込みたくなるものですが、そこはぐっと我慢していただいて(笑)。着飾らなくても光るものを持っていた方が後のち武器になると思うし、何より彼らならいろんなアレンジを取っ払っても大丈夫という確信もありましたしね。あとは、ちょうどアルバムのリリースが4月。春は、別れの寂しさを感じる季節でもあり、新しい始まりに胸がワクワクする季節でもある。そんなイメージを彷彿とさせる曲にできればと思って書きました」

 

田中「伊藤さんのおっしゃる通り、一歩踏み出すような前向きな曲で。こういう言い方は変かもしれないですけど、『さくらしめじを想って曲を書いてくださったんだな』っていうのが感じられて、そこに何より感動しました」

 

髙田「とにかく伊藤さんに曲を書いてもらえたことが嬉しくて。でも、本当に素敵な曲だったからこそ、これにどう歌詞をつければいいんだろうということは相当悩みました」

 

田中「前向きっていうテーマはふたりの中であって。そこからどうしようといろいろ悩んでいたんですけど」

 

髙田「どんなフレーズがいいか考えているときに、ふと下を見たら靴底が目に入って。靴底って深いなってピンと来たんです。歩けば歩いた分だけ靴底はすり減る。でも、それは自分が頑張ってきた証拠なんだよって。そういうメッセージを歌詞にしたいなって思いついたんです」

 

田中「生きていれば、自分は本当に頑張れているんだろうかって立ち止まりそうになるときがあるけど、そんなとき、靴底を見て、これだけ自分は頑張ってきたんだから、もっと自分を信じてやればいいじゃんって、前を向いて歩き出す。そういう歌にしたいなって彪我とも話し合って。まだ僕たちも16歳。これからも悩むことはいっぱいあると思うけど、それでも僕たちは僕たちの道を一歩ずつ歩んでいきたいなという気持ちを歌に託しました」

 

伊藤「日本のポップってコードが明るくて柔らかいのに、歌詞はめちゃくちゃ暗いことを歌っていたりとか、いろんなパターンがあるじゃないですか。それこそ僕がこの曲に自分で詩を乗せたら、きっともう少しアダルトなものになったと思うんですね。でも、彼らの歌詞はすごくピュアでストレート。それでいて、若い世代なりの葛藤もちゃんと描かれている。自分には書けないものがいっぱいつまっているところが、とても新鮮でした」

DSC_7685.jpg

これまでもライブで自らが作詞作曲を手がけたナンバーを発表するなど、クリエイターとしての腕も着実に磨いてきたさくらしめじ。伊藤が書き下ろした曲に詩をつけるというプロセスは、ふたりにとっても大きな成長のステップになったようだ。

 

田中「今までは自分がつくった曲に詩を乗せるか、いつも曲をつくってくださる作家さんの曲に詩を乗せるというのがほとんどで。伊藤さんとの共作は、今までとは違う角度から曲を見る力が鍛えられた気がします。具体的には、落ちサビ前の『どこまで行ったってボクはボクなんだって』っていうところは、今までだったら絶対に出てこなかったフレーズ。この『靴底メモリー』は伊藤さんとさくらしめじが掛け合わされて生まれた曲だっていうのが、僕の根底にあって。だからこそ、自分たちらしい音楽って何だろうって考えることも多かったんですね。そうやっていろいろ悩んだ分、最後には伊藤さんと僕たちさくらしめじ、それぞれの一本道がずっと続いているイメージが鮮明に頭に浮かんできて。誰よりも僕自身が『どこまで行ったってボクはボクなんだ』ってと言える気持ちになれたから書けた歌詞だと思います」

 

髙田「実はこの歌詞が出来上がるまで、何回か歌詞を書き直したんです。最初の頃に書いた歌詞はもっと小難しい感じの言葉が入ったりしてたんですけど、それだとこの曲があまり成り立たない気がして。考えて考えて考えて、最終的に出た答えが、自分たちが思っていることをそのまま書くっていうこと。それがこの曲がいちばん映えるやり方なのかなと思ったんです。結果的に出来上がった歌詞はすごく気に入っていますし、そんなふうに自分たちの思っていることを素直に書くというのも、ひとつの歌詞のつくり方なんだなって勉強になりました」

DSC_7698.jpg

たくさん失敗して傷つくことで、自分たちの音楽が見えてくる

人と共作することで発見する自分らしさ。また新しい春を迎え、さくらしめじの旅は、これからも続いていく。

 

田中「僕が目指しているのは、人の心を動かす歌を歌えるアーティストになること。ひとつの曲を聴いて、全員に大好きと言ってもらうのって難しいと思うんです。でも、そういう好き嫌いを超えて、聴いていて気持ちが動かされる歌というのは必ずある。そんな歌を歌っていけたらなと思います」

 

髙田「僕は1曲1曲を大切にできるアーティストになりたいです。音楽活動を続けていると、どうしてもひとつの曲に対する思い入れみたいなものが雑になってしまう気がして。でもそれは、その曲のことを好きだと言ってくれる人の気持ちを踏みにじってしまうことだと思うんですね。たとえどれだけ曲が増えても、1曲1曲を大切にしながら、聴く人の心に届けていきたいです」

 

これからも「さくらしめじの音楽」を追求していく若きミュージシャンに、人生の先輩として伊藤からこんなアドバイスが贈られた。

 

伊藤「小手先のテクニックはある程度練習や経験を積めば何とかなると思います。でも一番大切なことは、曲のジャンルやテイストがどうであれ、ふたりがいればオッケーみたいな空気感を出せるようになること。それは決して教科書には載っていない部分の話です。そんな空気感をどうやって身につければいいかと言うと、やり方は人それぞれだけど、ふたりは明るくてピュアなキャラを持っているので、ぜひもっともっとたくさんのお客さんの顔を見た方がいいですよね。お客さんの反応って本当に様々。日によって、会場によって、いろんな発見がある。当然、上手くいく日もあればそうでない日もあると思う。でもね、僕から見ると、それさえもすごく嬉しいことなんです。なぜなら、何でも物事がトントン拍子で進んでしまうより、たくさん失敗した方が良かったって思える日がいつか必ずやってくるから。その日のために、ふたりには恐れずたくさん傷ついて失敗してほしいなと思います」

 

田中&髙田「ありがとうございます!」

 

田中「今までフリーライブをしたり、直接お客さんの顔を見られる場所を大事にやってきましたけど、その全部が自分たちの力になっているなと思います。だから、これからも伊藤さんのおっしゃるように、たくさんのお客さんの前でライブをして、さくらしめじというものをもっともっと確立させていきたいです」

 

髙田「ひとつひとつのライブが、これからのさくらしめじをつくっていくんだと思います。だから、すべてのライブやイベントを無駄にせず、今の自分たちにできる最高の音楽を考えて、これからもやっていきたいです」

DSC_7672.jpg

ちなみに最後にこんな質問を。もしまた何か新しいコラボをするなら、どんなことをやってみたい……?

 

伊藤「今回は明るい曲だったので、次は超暗い曲というのもいいかも(笑)」

 

田中「歌ってみたいです!」

 

髙田「うん! どんなふうになるんだろう……(笑)」

 

田中「僕は赤坂BLITZの日のことが忘れられないので、またあんなふうに3人でひとつになってみたいです」

 

髙田「ぜひこの『靴底メモリー』を3人で演奏したいです!」

 

伊藤「いいですね。でも、ふたりの吸収スピードがものすごく速いからなあ……。もしまたその日が来たら、次は置いていかれないように頑張らないと(笑)」


Credits

Text:Yoshiaki Yokogawa

Photo:mican