2019年7月24日に「Departure」でメジャーデビューした川口レイジは現在25歳。
香川県出身の彼は、高校生活を送るなかで音楽にのめり込んでいく。そのきっかけは亡き父の遺品から見つけた一本のクラッシックギターだった。
路上での弾き語りライブや動画配信を経て、海外の一流クリエイターとの楽曲制作を行うようになった川口レイジ。
エレクトロニカでラテン調の楽曲を発表するシンガーソングライターの存在は、現在の日本の音楽シーンではまだ少し異質だ。海外のミュージシャンとコライトしながら楽曲制作を行う川口レイジの、音楽やサブスクリプションサービスについての思いを聞いた。
音楽を自分で能動的に聴いたりするようになったのは高校2年生の頃でした。ギターを始めたきっかけは、父の遺品の中から見つけたクラシックギターが始まりで、見つけた当初、触ってみたんですけど、チューニングとかも知らなかったのであんまり弾けなくて。その関係で一旦置いといて(笑)。でも学校の選択授業で音楽があって、その時にくじ引きでギターになったんです。そこでチューニングとかも教えてもらって、家でも父のギターを弾けるようになった感じですね。
歌を始めたのは、ギターと同じくらいの時期です。本格的に、という意味ではギターの方が若干先ですが、ギターを触り始めた時から、”ギターを弾きながら歌いたい”という思いはありました。
―インスタでピアノ弾き語りをされているのを拝見したのですが、ピアノはいつから始められたんですか?
ピアノは、20歳の誕生日に自分で電子ピアノを買って弾き始めました。ギターと違って押したら音がちゃんと鳴ったので、本当に見よう見まねで始めました。コードとかの概念はギターで学んでいたんですが、最初は指2本とかで鍵盤を押えていたので、ピアノやってる人に「なにそれ?」って言われたりもして(笑)。「本当は3本とか4本で押さえるんだよ」って言われてやったんですけど、それがどうしても難しくて、今でも2本とか多くても3本で押さえている時が多いです。
―弾き語りができるようになるまで、かなり努力されたのではないですか。
好きで始めたので、努力しているという意識はなかったです。周りにピアノで弾き語りしてる人もいたんですよ。ギターと違うところもあるじゃないですか、音がギターよりぐわーって広がって、すごい羨ましいなと思っていて。届いてからは毎日何時間引いたかわからないくらい弾いてました。弾けるようになってからは、そんなには弾いてないです(笑)。
パスポートを作ったことがなく、英語も高校の授業で習った程度。それでも “行くしかない”と曲作りに行き詰まる状態を打破すべく渡米したという。渡米後、グラミー賞の最優秀レコード賞にノミネートされた「Despacito」のソングライターでもあるMarty Jamesと「R.O.C.K.M.E. ft. Marty James」「Like I do」をコライト(共同作曲)し、デビューEP「Departure」でも全楽曲の制作を一流のクリエイター達と行った。
―川口さんの制作方法である”コライト”というのは、具体的にどのように楽曲が出来上がっていくのでしょうか。
細かくいうと、初めに僕がリファレンスとなる楽曲を選んだり、自分で作った曲を用意します。スタジオに集まってみんなで聴いて、意識をすり合わせるというか。そこからプロデューサーさんがDAWで打ち込みをしながら、僕の方からその音色は気に入らない、気に入った、こういう音色にしてほしい、という話をしながらOKを出します。僕が細かいところを言わなくても出来ちゃう人なので、その後はお任せします。制作中のトラックが繰り返しスタジオで流れているので、僕はそれを聴きながら携帯の録音アプリ使いながらメロディを出していきます。良いなと思えるものが出来たら、そのまま歌詞を書き始めて、トラックが出来次第そのまま歌入れをします。そのあと微調整していく、っていう流れですね。
―なるほど。歌詞の話が出てきたのですが、川口さんの歌詞は恋愛系というか、誰かに向けたものが多いと思いますが、歌詞を書く時は大まかなテーマがすでにあって、そこから膨らませるのでしょうか。
いろんなケースがありますね。僕の中では、恋愛の曲にしようと思っても、どういう恋愛なのかっていうのは曲を聴いてみないとインスピレーションが湧きづらかったりします。イメージが先にあって作る、っていう方も多いと思うんですけど、僕はどちらかっていうと、メロディは主役なんですけど、音楽の中では主役にも関わらずウワモノなんですよ。なので、僕は出来上がってるものの上にのせたい、っていう気持ちがあります。トラックやリズム、他の楽器のフレーズに応える形で、メロディと歌詞を書いているという感じです。ライムっていう概念がhiphopとかじゃない限り、日本ではそんなに重要視されてないところかなって思っていて。でも、さりげなくですけどしっかり踏んでるんで、そこをご注目ください(笑)。
―聴きどころ教えてもらいましたね(笑)。
先日公開されたプレイリストでは、川口自身が「マリブのビーチで聴きたい曲」というテーマで選曲をしてくれている。最新曲「Summer Still Burning」のMV撮影地であるマリブビーチを題材とし、夏の終わりにもふさわしいセレクトになっている。
―AWAでは川口さんご自身が楽曲をセレクトしたプレイリストを公開していただきましたが、普段音楽を聴く時にサブスクを使っていますか?
もちろんです。たくさん曲を聴かなきゃいけないので、購入するよりもストリーミングで聴いていることが多いです。お店でかかっている曲を音楽認識にかけて聴いたり、インターネットで検索したりもします。
―常にアンテナを張ってるんですね。
僕多分、音楽好きなので(笑)。いいなって思ったらすぐ検索してます。
―率直に、定額制の音楽サービスに対して思っていることがあれば教えてください。
見方が色々あると思うんですけど、僕はすごく満足してますね。何個か入れるとそれだけ月々に払う料金も上がると思うんですけど、それでも僕はそれぞれに特徴があって、棲み分けができているなと思って使っています。強いて言うなら、友人からは「このアプリに邦楽があんまり入ってない」という意見を聞くことはあります。僕は満足してるんですけどね、本当に(笑)
中高生とか、自分で携帯代を払っていない年代だとなかなか月額料金が払えないので、ちょっとしんどいのかなぁって思います。例えばそのアプリひとつで、アーティストの秘蔵写真とかも見られる、ってなったら(月額料金を)高く感じる人は減るんじゃないかな。
―”音楽を楽しむ時の基地” になっているのは理想ですよね。
そうですね。でも、僕は本当に好きで、移動中もいつも聴いてます。
日頃から感度高くアンテナを張り、たくさんの音楽を聴いているという彼に、いま特に注目しているアーティストを3人選んでもらった。
ジェジュンさん、カミラ・カベロさん、…あとひとりですよね(笑)。マシュメロさんですね。すごい迷いましたけど(笑)。
―その3名を選んだ理由を教えてください。
ジェジュンさんは、ここ1.2年くらいで好きになりました。日本でのソロデビューの時にリリースされた「sign」や「LAVENDER」をよく聴いたんですけど、すごくいいなぁと思って。僕もいまリリースしている曲のルーツが日本に根付いてないものだったりするので、そことJ-POPとしての文化の折り合いをどうやってつけながらやっていこうかな、っていう思いがあるので、ジェジュンさんの曲を聴いて「あ、こういう形もあるんだな」って思いました。極めて日本のカルチャーと親和性が高い曲になっていたので。とても人気なジェジュンさんがそういう楽曲を出すことに対して、どういう反応があるんだろう、という部分も注目しています。
カミラ・カベロさんは、僕がアメリカで本格的に音楽制作をするようになってから出てきて、その頃は本当に今より音楽について詳しくなかったので、「Havana」とかも聴いて、「こういう音楽もアリなんだ」って思いました。
なにより声がまず素敵だし、単純にファンっていう感じですね(笑)。
マシュメロさんは、作っているサウンドの世界観がどタイプというか。いろんな方のプロデュースやサウンドメイキングをされていて、聴いてみると全部いいなって思います。フェスとかで出てきたときもしっかりマシュマロを被っていて(笑)。ブレないなと思っていて…どこから前が見えてるんだろう…?いろんな意味で目が離せないんじゃないかなって(笑)。
―うまいこと言いましたね(笑)。
―川口さんと他のアーティストさんとのコラボもいつか見てみたいです。
そうですね。僕、シンガーソングライターなんですけど、視点がいわゆる今までのシンガーソングライターの方とはちょっと違うかな、と自分で感じていて。でも曲作って歌うんだからSSWであることは間違いないんですけど。いろんな音楽の楽しみ方ができればなと思っています。
―楽しみにしています。ここで少し砕けた質問なんですが、音楽以外でハマってるものはありますか?
ペットショップに行きますね。自分ではまだ時間とかの関係で飼えないんですけど、わんちゃんとか猫とか、爬虫類とか珍しい魚を見たりして、いつか絶対飼ってやる…!って(笑)。
定期的に入れ替わるので、そろそろ入れ替わったかなって頃にチェックしに行ったりします(笑)。
―かわいい…!デビューEPリリース後からますますお忙しいと思いますが、CDリリース記念のインストアライブはどうでしたか?
本当に偶然通りかかった人、たまたま居合わせた人が見てくれて、CDを手にしてくれることがあるのですごく嬉しいですし、ラジオを聴いてきましたっていう方も、もちろんファンの方も駆けつけてくれて。普通のライブとは違う形なんですけど、歌ってそれをキャッチする人がいるっていう状況は変わらないので、一回一回大切にしていきたいと思っています。
本当にストリーミングの良いところは、調べなくてもレコメンドで目に入ったりするところ。CDショップに行って試聴機で聴いて、っていう時間がない人ももちろんいますし、そうなったら絶対家で横になりながら探せて、ワンタップで聴けるっていうのはすごい良いことだなと思います。サブスクがリスナーとアーティストとの出会いを作ってくれていると、すごく感じます。
どんな質問にも真摯に落ち着いて答えてくれた川口レイジ。インタビュー後、どうしてそんなに落ち着いているのかと聞いたら「緊張していました」と笑顔で言われ、エディターはそのギャップに陥落した。
“音楽が好き” というアーティストとして一番大切なものを根として、柔軟でありながら、どんな環境にも怯まない芯の強さ。常緑樹のように次々と新しい葉を身につけ、常に挑戦し続けるであろう川口レイジの今後に注目したい。
Links
川口レイジ公式サイト:https://www.reijikawaguchi.com/
川口レイジ公式Twitter:https://twitter.com/reiji_k_staff?lang=ja
Credits
Text:Makiko Kashio
Photo:Makiko Kashio