AWA主催、初のロックライブ『AWA MOSH PIT Vol.1』ライブレポート

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AWAが主催する初のロックライブ『AWA MOSH PIT Vol.1』が2020年11月30日に下北沢SHELTERで開催された。

AWAは2019年12月に日本各地のライブハウスと連携し、ロックバンドをプッシュするプロジェクト「AWA MOSH PIT」を立ち上げた。このプロジェクトはロックの原点をライブハウスと捉え、全26店舗(2020年12月現在)の店長やブッカーの目利きによるプレイリストを展開。また、ロックフェスやサーキットイベントの特集も数多く実施し、次世代バンドのフックアップ含め活動を続けている。

この「AWA MOSH PIT」の活動のひとつに主催ライブ開催を予定していたが、新型コロナウイルス感染拡大により開催の見送りを余儀なくされていた。しかし、2020年11月30日にロックライブ『AWA MOSH PIT Vol.1』を念願叶って開催することができた。記念すべき第1回に出演したのは、あるゆえと時速36kmの2組。ともに熱量あるライブが特徴のバンドだ。チケットは発売翌日にはソールドアウトとなった。このライブの模様をレポートする。


先に登場したのはあるゆえ。2019年11月に現在の体制で活動を開始してわずか1年弱で『COUNTDOWN JAPAN 20/21』への出演が決定。今まさに注目度急上昇中の4ピースロックバンドだ。

会場ではBGMが鳴り、白と青の照明だけがステージを灯す中、メンバーが姿を見せる。“東京のあるゆえです、よろしく”Vo.紫月がそう告げると、ライブはスタート。
1曲目はあるゆえの武器であるポエトリーリーディングからサビへと突入する展開がたまらない話題曲「騒音楽」。曲中、紫月は腕をぶんぶん回す動作をとり、自分にエンジンをかけるように、そして曲の世界に入っていくのがわかる。

よろしく、SHELTER
曲終わりにそう挨拶すると、ハイハットが鳴って次に披露されたのはLive Videoも公開されている、あるゆえ流のラブソング「毒を塗って」。サビで感情をぶつけるように “どうにかしてくれ” と言い放ったと思えば、その数秒後には震えるような声で歌う。この入り混じる歌声が曲の主人公の感情の波をみごとに表現していて思わず鳥肌が立つ。

Vo.紫月(あるゆえ)

Vo.紫月(あるゆえ)

この序盤2曲であるゆえというバンドが持つエネルギー、強いメッセージ性、紫月の歌とメンバーの轟音が共鳴してオーディエンスを圧倒するそのスタイルが観客に存分に伝わったはずだ。

AWA MOSH PIT Vol.1 呼んでくれてありがとうございます
MCは控えめに、すぐにフロアにギターが鳴り響き、ギターと歌のシンプルな構成ではじまったのは「みえるものは」。音圧を抑えこれまでの会場の空気をがらりと変える。メロではあえてけだるさも感じる歌唱で言葉を紡ぎ、サビのフレーズをより印象的に聴かせる。リフレインされた “感覚の共犯者” のフレーズは会場にいた全ての人の脳裏に焼き付いた。

ひずんだギターと歌声だけになったのはわずか一瞬。ファンには聴き馴染みのあるギターの音色が鳴り響くと、あるゆえの代表曲「ライブハウス」へ。歌い出しの ”あんたの歌がないと死んでしまうよ”。このワンフレーズにどれだけのロックファンが心を捕まれただろうか。この曲のポエトリーリーディングはまるでマシンガンのようで。撃たれて釘付けになっているところで、サビの伸びやかな歌声が響き気づくと拳を突き上げてしまっている。そんな感覚。この日も声は出せない分、拳を真っ直ぐに突き上げるオーディエンスの姿があった。さのひろのしん(Dr.)が時折笑みを浮かべていたのが印象的だったが、それはライブハウスで鳴らすこの曲がメンバーからしてもたまらなく心地良いからだろう。

Dr.さのひろのしん(あるゆえ)

Dr.さのひろのしん(あるゆえ)

拍手が鳴り響いてからのMCでは、“はじめて40分のセットリストをやることになったんですけど…長いなーって。息切れがね、体力持たないんじゃないかな最後まで…頑張りますけど”と紫月(Vo.)は意外にも弱気な発言。思わずさのが『大丈夫!』と声をかける。“時速さんと今回ツーマンということで。(AWAから)声をかけてもらったときに、時速さんがやってくれるなら出ますと言ったんですよね。一緒にやらせていただきたくて。うちらもかっこいいんですけど!このあともっとかっこいいのが見られると思うので。でも、時速さんに負けないほどかっこいいライブをしたいと思います

そう言って次に披露されたのは「月に喰われて」。ドラマチックなギターとまるで観客と自分自身に話しかけるような歌い出しから一気に転調して、ボーカルも演奏も急激に加速度を増すその展開に思わず引き込まれる。MCでの弱気な発言も、こんなパフォーマンスを見せられたらただの振りだったと思うしかない。

たたみかけるように、開放的なサウンドではじまったのは「生きていたいんだ」。最初に拓永(Gt.)のコーラスがテンポを生み出し、それに続き紫月がヒップホップのようなリズムで言葉を繋いでいく。ポエトリーリーディングも曲によってすべて違って、楽曲の世界観によって使い分けているのがライブだと顕著にわかる。

事前インタビューで拓永がリズム隊について“ドラムはもちろん、ありさ(Ba.)のベースプレイがあるゆえの基になっている。そこが安定してくれているからポエトリーリーディングもギターも思い切りできる”と語っていた。ここまでの6曲を見ていて、それがとても納得できたのだった。

Ba.ありさ(あるゆえ)

Ba.ありさ(あるゆえ)

そして、ついにクライマックスへ。青い照明が会場を包み、夜が演出され、この日最後の楽曲「生活夜」へ。終わらない夜にひとり自分に語りかけるような、そんな言葉たちをメロウなメロディに乗せていく。“ありがとうSHELTER、またどこかで”そう告げると、この日もっとも繊細な歌声を織り交ぜながらフロアの熱を鎮めるように歌い上げ、余韻を残しステージを去っていった。

初の40分ということだったが、あるゆえの魅力はこのくらいの尺で幅広い楽曲を鳴らすことでより伝わるのではないかと思う。このバンドのパワーとまだまだ底知れないポテンシャルの高さを見せつける圧巻の時間だった。

あるゆえ

あるゆえ

カメラマン:エド ソウタ
Twitter:https://twitter.com/ain_tnomagicTwitter
ID:@Ain_tNoMagic

▼Setlist

1.騒音楽
2.毒を塗って
3.みえるものは
4.ライブハウス
5.月に喰われて
6.生きていたいんだ
7.生活夜


あるゆえの熱狂のパフォーマンスから20分。次にステージに上がったのは時速36km。2020年は多くのバンドが活動を制限された1年だったが、そんな中で6月から8月まで3ヶ月連続でシングルをリリース。着実に支持を獲得し、ライブもソールドアウトを続ける。そんな彼らだが、この日はメンバーもびっくりの思わぬサプライズな出来事があり、、それは後述するとしよう。

仲川(Vo.&Gt.)が右手をあげてSEを止め、静かなギターの音からライブはスタート。1曲目は「クソッタレ共に愛を」。スローでどっしりとした重厚なバンドサウンドが鳴り響く。歌詞に ”朝焼け” が出てくるが、オレンジの照明がまさに朝焼けのようで、それがライブの始まりとも重なる。音数がそれほど多くない分、仲川(Vo.)の歌声が引き立つナンバーだが、後半は4人でただただ音を共鳴させる。クソッタレ共、つまりフロアの我々に向けて「さあ行くぞ」とエンジンをふかしているようで期待感が高まっていく。

東京江古田、時速36kmです、よろしく
間髪入れず、”三三七拍子” という歌い出しが印象的な「七月七日通り」へ。一気に会場のボルテージが上がり、観客も上下に身体を揺らす。サビでは一斉に拳を突き上げるロックバンドのライブならではの美しい光景が広がる。この曲では特に顕著だが、リズムを完全にキープしながら熱を帯びた言葉を連打する仲川(Vo.)のボーカル力にいつも驚かされる。続いての「真面」は一転、落ち着いたリズムで曲が進む。”少しだけいつも死にたいのは 哀しいかなとてもまともな事だ” そう自分に言い聞かせるような歌詞で、観客を少しだけクールダウンさせた。

MCではまずこのご時世でも足を運んだ観客に感謝を伝え、恒例となったオギノ(Ba.)と仲川(Vo.)の掛け合いで会場は一気に和やかなムードに包まれる。2人で声を合わせて“(AWAの)CEOがいたな!初めて見た!”と話すと、オギノは”今就活してるからこれを機にAWAに就職できないかな、尾田栄一郎も聴いてくれてるらしいんですけど!”と話すと会場は大きな拍手。そう、この日のサプライズな出来事とは「週刊少年ジャンプ」で漫画家の尾田栄一郎氏が時速36kmの名前を出したことなのである。

そんなMCのあとに披露されたのは「素晴らしい日々」。生活感ある言葉がちりばめられた曲中に出てくる “夜の中央線” が目に浮かぶドラマチックなメロディとギターの音色に観客はただ身を任せる。

余韻を残しつつ、次に披露されたのは最新曲「アトム」。石井(Gt.)の瑞々しいギターの音色が響く。この曲について事前インタビューで松本(Dr.)は“「アトム」は今までのバンドの感じから少し新転換というか、いろんなことをやってみようというふうに考えたりして作った”と語っていた。熱量に種類があるならばこの曲は他とは明らかに違うし、”空も飛べそうなあの感じ” というフレーズの通りに浮遊感と一気に視界が開けていくような解放感がある。サビ前にタメを作り、強めに鳴らすドラムも曲を勢いづけているがライブではよりそれが効いていて、観客がまるで太陽の光を浴びるように手をかざしている姿が印象的であった。

時速36km

時速36km

1st EPの再録盤のリリース告知から、その当時フロアいっぱいに観客がいたことがなかったという1年目の自分たちを回想しながら、結成1年弱のあるゆえにエールを送り、さらにこう続ける。

AWAからオファーを頂いて、初めてあるゆえの音源を聴いたんですけど、すげえかっこよかったんですよね。もし、AWAがなかったら出会わなかった。出会うにしても、もっともっと先だったと思うし、ツーマンでやる機会はなかったかもしれない。AWAが引き合わせてくれたんですよね、そういう意味でもこの企画に呼んでもらえたことが俺はとても嬉しいです

涙するファンもいた。フロアが仲川のMCに釘付けになったが、オギノをチラッと見てしまったことでツッコまれ、“終わりの運びになりました!”という落語好きが垣間見えるその一言でフロアは笑いに包まれる。そんなメンバーの人柄も魅力的だった。

MCを終え、”死んでいるように見えるかい?” という「スーパーソニック」の歌い出しでがらりと会場の空気を変えて見せる。それはまるで獲物を油断させて一気に仕留める狩人のよう。サビでは全員が拳を突き上げ、”やっていくしかないよな” というメッセージに心を通わせる。歪んだギターの激しいロックでも、親近感のあるフレーズでどこか哀愁を感じてしまうのが時速ならではで、それはライブでも同じだった。

まずはなんか 食いに行こうぜ!
その一言で次が「銀河鉄道の夜明け」であるとわかると飛び跳ねて喜ぶファンたち。快速なロックナンバーで畳み掛け、フロアの盛り上がりは最高潮に。”まずはなんか 食いに行こうぜって事さ” そんな無骨で人間臭いメッセージを「銀河鉄道」というドラマチックなワードと絡めるセンスが素晴らしい。

ありがとう時速36kmでした。最後の曲です、「ハロー」!
間違いなくこの日最も演奏が待たれていた1曲を投下。尾田栄一郎氏にハマってると言わしめたこの曲は、ひとつの挑戦として歌詞を初めて全員で意見しあって作り上げたそうで、また、聴き手にとって親切でありたいとも事前インタビューで言っていた。そんな想いをこめた楽曲はリリースからわずか5か月で時速36kmを象徴する1曲となり、フロアをこのうえなく熱狂させて本編を締めくくった。

フロアにはアンコールの拍手が鳴り、間もなくしてメンバーが再びステージに登場する。

今日楽しい!あと1曲やって解散としましょうか、ありがとうございました!
そう言って披露されたのはキラーチューンの「夢を見ている」。

「夢は砕ける前が一番綺麗なはずだろう 夜は夜明けの前が一番暗いって言うだろう」

刹那を生きるロックバンドだからこそ説得力のあるメッセージと爆音の余韻を残し、時速36kmのライブは幕を閉じた。

時速36Km

時速36Km

AWA含めストリーミングサービスは非常にデジタル化された仕組みで、音楽との出会いを求める人にそれを届ける。ただ、便利である反面、それだけではアーティストや楽曲が持つ根っこにある熱量が十分に伝わりきらないこともあるのがロックというジャンルだろう。それを打破すべく『AWA MOSH PIT Vol.1』は開催されたのだが、この日出演してくれたあるゆえと時速36kmは見事なまでにその想いを受け取り、表現してくれた。記念すべき第一回目としてこれ以上の2組はいなかったように思う。

このようなご時世でも熱狂の空間を作ってくれた、あるゆえ、時速36km、そして下北沢SHELTERには心から感謝の想いを伝えたい。ただ、ひとつ困ったのは第2回のハードルが凄まじく上がってしまったことだ。なんともありがたい悩みである。

カメラマン: 金子駿斗

▼Setlist

1.クソッタレ共に愛を
2.七月七日通り
3.真面
4.素晴らしい日々
5.アトム
6.スーパーソニック
7.銀河鉄道の夜明け
8.ハロー
Encore. 夢を見ている


▼「AWA MOSH PIT Vol.1」事前インタビュー
・あるゆえ( https://mf.awa.fm/3l3apZn
・時速36km( https://mf.awa.fm/3laMKX6

▼「AWA MOSH PIT Vol.1 出演: あるゆえ/時速36km 特集!」
https://mf.awa.fm/3p9cdT0

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